寺が鐘を鳴らす。
朦朧とした頭に響いて寝返りを打った。
一人暮らしで原因不明の具合不良などあるものではない。
もう夜になってしまったじゃないか。
せっかくの休日だというのに、なぜ彼女の一人もやってきておかゆを作ってくれたり「はい、あーん」としてくれたり「汗をかくと風邪は治るのよ」といって(自粛)したりしてくれないのだろうか。
答えは簡単だ。
彼女がいないからだ。
「……」
ピピ、と体温計を音と一緒に脇から抜く。
熱上がってきた。
くそ。
うだる額を転がして汗っぽい身体を毛布に潜らす。
何が悲しくてこんなことになっているのだろうか。
「悲しいのですか。悲しいのですか。」
「ああ」
答えてから止まった。
侵入者か。
空き巣か。
いや俺いるから空き巣じゃないけど。
風邪薬の代わりに千円上げてもいいぜ。
とか冗談みたいに思いながらとりあえずベッド脇の置時計を武器代わりに手に引き寄せ上半身を壁に引っ付けながら起こした。
ぐらぐらする。
「ぐらぐらするのですか。ぐらぐらするのですか。」
目の前に妖精がいた。
羽が生えて可愛らしいワンピース(しかもすけてる)(ぱんつはいてな略)を着ている。
ただし蛙の顔。

ああ、熱上がってたもんな。

「……寝よ。明日も仕事だ」
「仕事なのですか。仕事なのですか。」
「うるせー」
適当に返して布団に入る。
「うるさいのですか。うるさいのですか。」
ああ、ああ、うるさい。
やかましい。
心がしばきたおされる系列のやかましさだ。
蛙の分際で何様か。
「俺は風邪引いてるの。寝かせてよまじでさ」
「風邪なのですか。風邪なのですか!!」
蛙が下戸下戸と鳴いた。
じゃなくてげこげこ…あー酒飲みてえ。
今飲んだら死ぬが。
「では治してしんぜましょう!!」
「余計なお世話だ、良いから出てってくれよっ」
手で払うとあっさり、思ったよりもずっとあっさりと、蛙なんだか妖精なんだか分からないそれは、手の甲にはじかれてベッドの脇へとまるで子供のように飛んだ。
そしてたたみにぼすりと落ちた。
暫しの沈黙に熱された脳がゆっくりと冷え込む。
湿度の高い呼吸を、止めて、それからまた長く細くはいた。
「…ぁ、その」
「すいませんでした申し訳なかったです」
蛙がおたまじゃくしみたいな眼をして小声で言った。
「すいませんでした」
とぼりとぼりと、畳の上を小さな歩幅(四本足)で去っていく。
羽が寺の鐘を分け入り差してくる西日に透けてふらふらと震えていた。











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