寒い夜だった。 紺色の空を月が冴え、東の空から上ろうとしている。 わたしは家出中だった。 喧嘩したのは進路のことだ。 田圃の畦道は誰も居ない、こんなに寒かったら変態だって身を潜めるからかえって安全。 赤いコートをマフラーで緑に染め、軽トラックが通る隣で風を聴く。 田圃一面に覆う雪はまるで夜には海になる。 遠い灯りたちは住宅街、波止場の向こうに輝く大陸。 オー・ラ・リーをハミングした。 次はグリーンスリーブス。 ついでにグリーン・グリーンを思い起こせる歌詞で(忘れたらハミング)歌いながらゆく。 これはとても悲しいけど音楽の授業のときから好きだった。 青空には小鳥が歌い。 ある日パパと二人で、語り合った 立ち止まる。 風は冷たく頬に染みる。 消防車の遠い乾燥警報に犬が啼いて、雲はゆっくりと満月に照らされる。 オリオンはどこだろう。 息が白かった。 どんなに腹が立っていたって、帰らなくては眠れない。 ベッドはあの家にしかないのだ。 影を踏みながら外灯を見上げると虫が群がっていた。 冬だというのに生きてるのも居るんだ。と思った。 |