山奥の小さな小学校に転校した私は泣いてばっかりいた。 隣の子は無邪気に嘘を教える、 「やまかがしはチョコレートを嫌いなんだぜ、」 へびを振り回されて追いかけられた私は必死に男の子にチョコレートを渡した。 騙されていることに気付いたのは四日後だった。 山は四月の入学式の季節になっても枯れていて木肌も皺だらけで、お祖母ちゃんに撮ってもらった入学式の写真をアルバムごとぎゅーっと腕に抱きながら、私は裏山の麓を歩き回った。 幸い、足は速かった。 だから体育の時間は田舎育ちの人たちに負けることなくエースでいられた。 そこから足がかりができて、段々と村に馴染んだ。 長縄跳びに混ぜてもらえたし、男の子達に混じってサッカーをした。ハンドしてブーイングされたけれども。 夏は空が真っ青で東京より北の癖に結構な暑さだった。 蝉がひたすらうるさかったことをおぼえている。 三年目の虫取りでクワガタを手でつかめるようになった。 水槽の中を観察して夏休みの宿題にした、たしかそう。 あとは四年目の夏にお葬式があった。 引き取ってくれていたお祖父ちゃんは、暑い夏で心臓が止まってしまったんだって、周りのおばさんが言った。 黒い服を着たお姉さんに手を引かれて。 車に乗り込み振り返る。 膝を立て見つめる車後部のガラスから、山がどんどん遠ざかっていった。 (千代さんが転校した頃の話) (録音テープの停止ボタンが押されたらしく、そこでガチリ、と 鈍い響きがあってざーざーとスピーカーは平坦に唸りだした。) サッカーってなんだろう。 三角椅子に腰掛けて、古代文明の研究レポートに洋ナシ頭を悩ませて見たりして。 ペンの頭は発光ダイオードでちかちかと光っていた。 『文脈からしてスポーツだろうね』 円筒型のガイドフレンドが電子音声で余計なことを言った。 |