100yen








0:

今川焼きは百五円クリヰムと小倉で水っぽさの無い生地はふよふよとこげ茶色をしていたが、歯で噛み締めてから握ればクリヰムはふにょんと出てきて指を汚すのだ

なめる指
甘い。

ぶらぶらするガードレール下のスニーカーと、
夏の空と、
天の川未満のかすかな星と、
外灯。
虫がバチリとぶつかる。

ヘッドライトが星を溶かして今川焼きはむにゃりと湿気の中で甘かった。



(待ち合わせの時刻五分過ぎ。)








1:

後味のいいくらい甘いというところがあの店のステキなところだ。

小さな小さな、焼鳥屋の向かいのいつもの店のいつもの今川焼き

湿気のうしろからするすると追いかけてきた、ちょっと乾いた風が私の頬をすり抜けるとガード下の外灯がちかちかと弱りはじめているのに気付いた。
しんとしているようで、目の前ではトラックやらが轟音をたてて通り過ぎる。
雲行きも雨模様、そんな




(待ち合わせの時刻二十分過ぎ)








2:

靴の中に砂がはいってる気がする。


(待ち合わせの時刻二十五分過ぎ)








3:

気がするだけよ、なんて気休めにもならないみたい
わたしは靴のひもをほどいて脱ごうとする。靴のひもは普段結びっぱなしだからそれをほどくということもなくて、なんだか新鮮な気持ちになった。  

いつから靴のひもをほどいていないんだろ


なかば、堅く結ばれているひもをしゅるしゅるほどく。

それと同時にわたしの意識もするするとほどけていった、なんだーこのまま素足にだってなれるんじゃない。

背中では今川焼を焼いてる店主が静かに襟足を舐めた




(待ち合わせの時刻四十分過ぎ)








4:

店主の手のひらは肉球でぷにぷにしている。
肉球?

肩越しにちらと振り返っただけのあと、瞬きをして不思議な気分、外灯の虫が死ぬのを見つめて足をぶらぶら。
両手の指の中には縞の靴紐、泥とか砂で黒ずんでいてかすかに爪をしゃじゃりとさせる。

風が涼しくなってきた。
坂道の向こう道路の先をじっと見る





(待ち合わせの時刻五十八分過ぎ)








5:

ちょっとしたことでいつも鳴いてしまうあたしは、目の前まで押し寄せてきた夕暮れに頼まれて一回鳴いてみせた。
そうね70%くらい、夜と夕暮れが交わったぐらいが一番心地いいのよね


少しおなかが空いたな、
さっきの今川焼のおつりをポッケから取り出す、100yenだけを手にとって座ってたベンチを立つと
背中にあったはずの今川焼のお店は店主とともに跡形もない


そう言えば子供の頃から、ここは、こんなふうに空き地だったっけ








(待ち合わせの時刻一時間十五分過ぎ)








6:


   
 
 
 
 
 
 
 
(…待ち合わせの時刻三時間過ぎ、の一秒前)











7:

誰かを待っているのも、気がしただけ。
夕暮れがむこうの山に消えてゆくのも、気がしてるだけ。
背中にあったはずの今川焼屋も遠くでかすんだヘリコプターの音も
わたしの座ってたベンチだって、そこにあった気がしただけ。

手にくっついたクリームも、すぐ横で鳴り響いてた踏切の音だってましてわたしのポッケの中にあった100yenだって


そこに あった気がしただけ









(待ち合わせは また明日、、、)









8:

「おお。おかえり」
ごつごつした五本指が(毛がはえていなくて変)頭をなでてガラス戸から首根っこ掴んでくる。
畳を泥で汚したので引掻いていると、夕風のにおいがして空が真っ暗だった。
そうね夕暮れ90%くらいってものね。
「よしよし今日の晩めしだ。ほれ、山分けな」
五本指の影が眼をよぎって今川焼きが爪の上に落ちる。
どこかで見たようなふにょんとしたクリヰムがはみ出ていた。
半分だけの月のよう。
開けっ放しの窓からはまだ雨の手前で風が吹き込んでいる。
道路に面したベランダをちかちか薄れた外灯が照らす中でトラックが轟音を鳴らしてる。
クリームが鼻について食べにくかったのでにゃーと抗議したら、五本指がポッケから100yenを取り出してはじき
「じゃあこれでアンコでも買って来いよ」
いひひひとわらった後ベランダの網戸を閉めに立っていった。
100yenは鉛色で臭くて錆びていた。

――わたしはクリヰムをそ知らぬ顔でもうひとなめする。




・・・・100yen END

青猫さんとの合作です。
交互に書いてました。偶数番がいすず作、奇数番が青猫さんです。




---------------
鈴の鳴る場所呟きの歌 (C)isuzu since2001